Zoomでオンラインイベントをテレビ番組っぽく配信するためにやったこと(機材編)

 こんにちは。社内でWebアプリケーションエンジニアをしつつ、社内の音響サポートしている @brtriver です。

 VOYAGE GROUPのAJITOでZoomを使ったオンラインイベントを何度か開催しましたが、その中の1つの日本CTO協会( https://cto-a.org/ )が主催する会員限定のイベントで実際に配信で利用した機材、設定で工夫した内容についてせっかくなのでまとめてみたいと思います。*1

cto-a.org

 このオンラインイベントでは全員が個別にZoomに参加するのではなく、発表者はオフライン会場であるAJITOに集まりその様子をZoomを通して配信する形式で開催しました。

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オフラインの会場の様子

4行でまとめると

  • Zoomは他のプラットフォームに比べても音質が良い。ただし癖も有り
  • できるだけソフトウェアではなくハードウェアに頼る。ATEM mini はコスパ最強
  • スライドはカメラ越しではなく直接取り込み文字を鮮明に読みやすく
  • できるだけ継続可能なためにシンプルな機材構成を目指そう

目次

なぜZoomなのか?

YouTube live じゃないの?

 オンライン配信というと YouTube live をイメージすると思います。実際YouTube liveのほうが不特定多数に安定した配信が可能なのですが、参加者とのコミュニケーションはチャットになります。そしてどうしても遅延が発生するためリアクションが遅れてしまいます。オフラインのイベントのように挙手してもらって質疑応答するなどを想定している場合はZoomを使ったほうがよりアットホーム的な感じで開催できると思います。今回は参加者限定のイベントだったのでZoomを使って配信する。という選択になりました。

  • YouTube live

    • メリット: 不特定多数にURLを配るだけで誰でも参加可能。参加する敷居が低い
    • デメリット: 参加者の反応をチャットで拾う必要がある。現場の映像と閲覧者のタイミングに遅延がある
  • Zoom

    • メリット: オフラインのイベントのように参加者もビデオで参加し顔が見える。遅延がない
    • デメリット: YouTube live に比べて参加するための敷居が高い

Zoomは高音質

 オンライン配信は映像と音を離れた場所から参加し内容を見聞きします。そして映像は多少乱れていても音声がはっきりと聞こえないと参加者は強いストレスを感じ結果として集中できなくなります。そのためにもプラットフォームの音質はとても大事になります。

 仕事のテレカンではGoogle Hangouts Meetを使う場面が多いのですが、Zoomよりもどうしても環境音などのノイズが入りやすいと感じています。これは Zoomのソフトウェアがオーディオ信号を人の声が聞こえやすいように処理(加工)していくれている結果です。2020年3月現在ではZoomが音質では頭一つ抜けて良いと思います。

gsuite.google.co.jp

なぜZoomに全員参加するシンプルなテレカン方式でイベントを開催しないのか?

 Zoomで一番簡単にオンラインイベントを開催するのは発表者、主催者も含め全員が個別にPCでZoomに参加することです。これは間違いありません。

 しかし、複数人がディスカッションするような場面や同時に話す人が増えてくると話すタイミングが難しかったりします。テレカンを行ったことがある方には一度は経験したことがあると思います。その点オフライン会場がありその会場の様子を配信すれば、イベントが単なるテレカンのような雰囲気にならずにちょっとしたテレビ番組っぽくでき、結果としてイベント感が演出できると考えました。

 また、会場の音声は同じ環境(スピーカーフォン)で集音できるため参加者は話す人による音質の違いからくる違和感は少なくできると考えられます。

配信機材

構成図

 まず、オンライン配信するために利用した機材と構成について説明したいと思います。

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配信機材の構成図

機材のレビューが本記事のメインではないので簡単に役割と特徴について説明します。

映像スイッチャー BlackmagicDesign ATEM mini

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ATEM mini
www.blackmagicdesign.com

  • 4つのHDMIを手元のボタンでスイッチングしたり、ピクチャー・イン・ピクチャーができる
  • 実売価格4万円弱。コスパが最強
  • 登壇者の名前をテロップで表示
  • スライドの画面をピクチャー・イン・ピクチャーで埋め込みスライドの文字を見やすく
  • ピクチャーインピクチャーとは - コトバンク

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登壇者の名前をテロップで入れたり、ピクチャー・イン・ピクチャーでスライドを表示

ビデオカメラ

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SONYの安いHDMI出力が付いたハンディカム
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SONY HDR-MV1
  • 全体撮影用 : SONYの安いハンディカム
    • ハンディカムの条件としてはHDMI出力が有り、HDMI出力にバッテリ残量など余計な表示がでなければOK
    • 三脚に固定するので高度な手ブレ補正機能は不要
  • 近接撮影用: SONY HDR-MV1
    • 会社のバンドサークルで所有していた超広角ビデオを活用
    • 演者の近くに設置し話している様子がより見えるように用意
    • HDR MV1は生産終了していますが、GoProなどアクションカメラがまさにぴったりだと思います
    • 近接カメラは邪魔にならないように三脚ではなく大型クリップを利用

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近接カメラ(HDR MV1)の映像

テレカン用スピーカーフォン Jabra SPEAK510

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Jabra SPEAK510
www.jabra.jp

  • 会社所有のスピーカーフォンを利用
  • スピーカーフォンのエコーキャンセル機能のおかげで会場とZoomの参加者がテレカンのように会話が可能
    • ただし会場の環境音(ノイズ)が大きいと声質が劣化し聞こえづらくなるので注意

演者用のモニタ画面

  • 振り返らなくてもスクリーンに何が映っているかがわかるように演者の目の前に設置。会社のゲームサークル所有のHDMIディスプレイを利用
  • ディスプレイにHDMIスルーアウトが付いていたため、HDMI分配器を用意しなくてもそのまま背面のプロジェクタに接続ができて便利だった

LEDパネル照明 Neewer 660

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この構成のポイントとメリット

ハードウェアにがんばってもらい配信するPCの負荷を下げる

 ソフトウェアでカメラの映像を取り込み同様の処理を行えますが、それだけマシンスペックが必要になってきます。最悪ソフトウェアがフリーズして再起動が必要になったりします。より安定的な配信をするためにはハードウェアでスイッチングさせるという選択をしました。実際 ATEM mini はとても安定していました。

スライド文字は見やすく

 ビデオスイッチャーを導入してスライドをビデオカメラ越しの滲んだ映像ではなくPCから直接HDMIで取り込んだ鮮明な画像で配信できました

スピーカーフォンを使う

 登壇者用のPCのマイク、スピーカーを使う方法もありますが事前に試してみた結果スピーカーフォンのほうが明らかに綺麗にZoom越しの参加者に聞こえることがわかりました。

 また、映像と音声を同じアカウントから配信しないとブラウザから参加しているユーザーだと音声がでているアカウントにフォーカスが行ってしまい映像が見えないという問題がありました。なので、配信の映像/音声を届けるPCは同じアカウントにまとめておきトラブルを回避する必要があります。

カメラを2台

 映像が切り替わるだけでいっきにテレビ番組感でます。ただ、あまりガチャガチャ切り替えると見ている方も疲れるので必要最低限のスイッチングを意識したほうが良いと思います。

演者の前にモニタを配置

 目の前に演者がみたい内容を映すモニタがあると目線を落とさずに済みますし、チャットにも気づきやすかったりします。もしかすると演者の背後のスクリーンはオンラインイベントでは不要かもしれないと思いました。

できるだけ会社にある資産を活用しシンプルな構成で

 会社にある機材をフル活用し足らないものだけを買い足しました。今回新しく用意したものはビデオスイッチャーと照明でしたがそれ以外は全て会社所有の機材や個人で持っている機材をフル活用しました。どうしても色々調べていると色々買いたくなってきてしまいますが、まずは最小構成でやってみるのが大事です。できるだけ構成はシンプルにしてイベント運営の負担を減らす工夫が必要だと思います。

この構成での課題

Zoomのオーディオ自動調整が効きすぎる問題

 Zoomのオーディオは人の発声に最適化されています。なので、発声以外の音である拍手の音がキャンセルされてしまう現象がありました。また開演前、開演後にBGMを流したのですがそれもキャンセルされる現象がありました。BGMはそもそも人の声ではないので音量の自動調整をOFFにすれば改善しそうですが、会場の音を良い感じに伝えるためにはスピーカーフォンではなく演者それぞれにマイクを用意しミキサーで調整したほうが良いなぁと感じました。

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自動調整をON/OFF

環境音が大きいと声質が激しく劣化

 今回は会場の近くにあった業務用冷蔵庫が温度が上がってくるとコンプレッサーが動き始めかなりのノイズを発生していました。その結果ノイズをキャンセルしようとスピーカーフォンとZoomのエフェクトがんばったため肝心な演者の声がとても聞こえづらい状況になりました。

 もしかするともっと高機能な高いスピーカーフォンを利用すると違うのかもしれませんが、良い音の基本はマイキングです。音質にはこだわりたかったという点では満足な結果が出せず課題が残りました。次回は全員にマイクを用意するなど別の工夫をしてみようと思っています。

最良の音質で収音するには、音源に適したマイクロホンを選び、適切な位置に設置することが必要です。マイクロホンの選択と設置方法が正しければ、収音した信号をエフェクタやプロセッサで後処理する必要はほとんどありません。

引用元: マイキングテクニック - Shureワイヤード・マイクロホン - ヒビノインターサウンド株式会社

オペレーションできる人が限られる

 何度かリハーサルや実践を繰り返したので当初は1時間ぐらい掛かっていた設営作業は40分ぐらいでできるようになりました。40分ほどの準備でこのクオリティで配信できるのはオフラインのイベント準備と比べてもそれほど大変ではないと思います。ただ、このオペレーションをできるのが今のところ自分だけなので良い感じにハウツーを伝えオペレーターを増やす必要性を感じました。

シンプルとはいえ初見殺しな設営。リハーサル大事

 オンラインイベントは何かトラブルが起きても基本どうにかして解決していく知識と判断が必要になってきます。私はもともとライブPA*2をやっていたりした経験があるのでトラブル時の対応には慣れていますが全員が慣れているわけではなりません。正直結局はどれだけ場数をこなすかだと思います。というわけでいきなり本番はせずにしっかりと何度かリハーサルを繰り返すのが大事だと思います。

オンライン配信すれば良いわけではなくあくまでもコンテンツの質はしっかり高めないとユーザーは集まらない

 今回はZoomでオンラインイベントをするためにやった機材について中心に説明しました。しかし、どんなに機材がリッチでもコンテンツが魅力的でないと駄目なのは間違いありません。またオンラインイベントは参加者の声をできるだけ引き出す必要があるなど運営にも工夫が必要なのは間違い有りません。そうしないと2回目以降の開催に参加してくれない可能性もあります。この点についてはまた次回ブログに書ければと思います。

VOYAGE GROUPではオンラインイベントのサポートもしています。

 今回のイベントのように新型コロナの影響でオフラインで開催できずにオンラインイベントの開催に移行を余儀なくされている方々もいると思います。

 VOYAGE GROUPではこれまでも渋谷にあるオフィスをイベントなどで会場貸出を行っていたりしていますが、今後はそういったグループの方々のオンラインイベント開催のための場所提供だけではなくオンラインの配信機材でのサポートができればと考えています。全ての方々にサポートできるわけではありませんがtwitterで @tech_voyageにDM頂ければと思います。

 また、オンライン配信のナレッジを今回のようにできるだけ公開しみんなで共有できればと考えています。各方面でオンライン配信のオペレータをやっている方々ぜひお友達になりましょう。

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オペレータから見た風景

 以上現場から @brtriver がお伝えしました。

*1:本記事は機材やソフトウェアについての説明にフォーカスしていますが、実際はイベントの運営方法にも工夫が必要だと実際にやってわかりました。この運営方法の課題や工夫についてはまた別の記事で話ができればと思います。

*2:PAとは https://ja.wikipedia.org/wiki/Public_Address